公開日 2019年2月7日
更新日 2019年2月28日
- 地域
- その他
- 名称
- 雨乞いと竜神(あまごいとりゅうじん)
- 所在
- 臼杵市末広松原
- 備考
- 平成4年3月調べ
- 説明
- “命の源”ともいわれる水は、農耕民族である日本人にとって豊富な収穫を得て生活し、国を支えていくためになくてはならない資源といえます。それだけに人々は絶えず昔から、田畑の水を確保するかんがい事業についての工夫や研究を行い続けています。
しかしながら、大量の水を人工的に作り出すことが不可能なのは今も昔もかわりありません。今でも時々見かけることがありますが、かつては日照りが続き水が枯れ始めると、雨乞いという祈とうを行って、降雨を願うことが良く行われていました。
昔から雨を降らせる神様として信じられているのが竜神です。ことに法華経(仏教の経典)を護るとされる難陀(なんだ)・跋難陀(ばつなんだ)・姿伽羅(しゃから)・和修吉(わしゅきつ)・徳叉迦(とくしゃか)・阿那婆達多(あなばだった)・摩那斯(まなし)・優鉢羅(うはつら)の八竜神は八大竜王と呼ばれ、厚く信仰されています。臼杵でも松原地区の山中には、この八大竜王をお祀りする場所があります。ここは九六位山圓通寺から南に約400m下った位置にある、尾根からコブ状に独立した標高387mの山頂上です。頂上部には高さ88cm、幅32cm、奥行き24cmの灰石製石塔が建てられており、この塔の南面には「八大竜王」の四文字が大きく刻まれ、西面には小さく「松原村」の刻銘があります。
この場所が松原地区全体を見渡せる位置にあること、石塔の西面の刻銘から、松原地区の人々が豊富な降雨を願ってここに八大竜王を祀ったことが考えられます。また、この場所が選ばれたことにはすぐ近くに圓通寺があることも無縁ではないようです。
圓通寺は天台宗の山岳寺院ですが、雨乞いに霊験があるとして古くから知られており、江戸時代には付近一帯の尊宗を集めていたようです。寺の周囲には雨乞いにまつわる場所がいくつかあるようですが、末広川上流の鐘ヶ渕にはこの寺の吊鐘を竜神がここに落とし込んだという伝承があり、この渕に酒を入れた竹筒を投げてそれが沈めばすぐに雨が降ると信じられていたようです。これも雨と竜神信仰の関係を物語る例でしょう。
松原の八大竜王塔がいつ建てられたかは不明ですが、「松原村」と刻まれていることから、明治の初めか、江戸時代であろうと考えられます。それから100年以上たった今も、地区の人によって祀られています。
この塔が建つ山の下には、治水、かんがいのために造られた末広ダムのダム湖が広がっています。科学の力は水量の調整を可能にはしましたが、そこに貯えられる水は今も天からの恵みなのです。文明社会の今だからこそ、自然に対する畏怖の念を忘れたくないものです。